ゲレンデがとけるほどの恋をしていた話 / 唐突すぎた終わりに泣いた…

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人間、ゲレンデの雪を全部とかすほどの情熱を持つことは中々ない。95年に広瀬香美さんがそんなタイトルのシングル曲を発売してはいるが、「ゲレンデがとけるほど」はあくまで例えであり、「それほど熱い気持ちで」というだけの話である。

実際にゲレンデの雪がとけたらとけたで大変だし、そもそもゲレンデに積もった雪を1人の力でとかすのは難易度が超高い。だがしかし、あのときの私が発していた熱量はゲレンデを消滅させただろう。それほど熱かったのだ。気持ちだけじゃなく、パソコンが……。

それは1種の恋であった。そう言って差し支えないほどに私は夢中になっていた。間違いない。ただ、恋の対象が人間ではなく、ネット上の動画だったというだけである。

何の動画なのかはプライバシーに関わることなので公表を控えるが、合法的コンテンツを合法的手段によってダウンロードしていたということは言っておきたい。グレーゾーンでもなく、めちゃくちゃホワイトなやつだ。今話題の漫◯村的なサイトじゃないぞ。

──と、私がどれだけ説明しても、「自分が集めた動画に恋をしていたこと」に引いてしまった人もいるだろう。その気持はわからなくもないが、本音を言わせてもらうと……一体何が悪いのか？　恋愛対象は三次元の女性でなくてはいけないのか？　気持ちが本物だったら、それでいいじゃないか……と私は今でも思う。

・ネットの動画に恋した時代

不幸だったのは、私に人間の彼女がいなかったことじゃない。私の強すぎる愛を、私のWindows が支えきれなかったことだ。つまり、スペックがクソだったのである。なので、「1本でも……多くっ……！　1本でも多くの動画を……外付けHDDに保存したいっっ!!」という私の気持ちは、常に空回ることになった。

お察しのように、パソコンがすぐにアッツアッツになり、しょっちゅう落ちたからだ。そうなると一旦ダウンロード作業を停止し、パソコンの冷却作業に入らなければならない。外付けの冷却ファンをフル稼働させるのはもちろん、うちわや薄い雑誌までも使って風を送った。熱が出た時用の『冷えピタ』さえも動員したものだ。それはまるで、病気になった恋人を看病するかのように……。

そして、頃合いを見計らって恋人を起こしてみる。起動ボタンをポチっとしたら、ゼーゼー言いながらも復活。でもしばらくしたらまたアッツアッツになりダウン……というムチャクチャ根気のいる看病（作業）を連日連夜繰り返していたのである。