【辺境音楽マニア】過激さを求めた「ブラックメタル」の現状 / ゴリラをコンセプトにしたバンドまであらわる



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ブラックメタルは、近代文明や人間社会に否定的なスタンスを採る事で知られる音楽ジャンルのひとつである。当初はキリスト教や西洋文明に対するアンチテーゼから始まったのだが、その内の極端な一派が過激なエコロジーやアナキズムを主張し始め、ついには「グリーンメタル」や「レッドメタル」といった派閥まで登場し始めているのが最近の状況だ。

特に有名なのがその名も「Botanist(植物学者)」というサンフランシスコの「反人類」を掲げる「グリーンメタル」を自称するエコロジカルブラックメタル。まさかと思われるかも知れないが、ポストブラックメタルとの類似性を感じさせ、個性的でなかなか音楽的レベルも高い。今回はそんなブラックメタルの発展について、お伝えしよう。

・動物園のゴリラが射殺された事件

さて植物を主題に掲げるブラックメタルが出てくるだけでも変な話に思えるが、今度は「殺されたゴリラ」をコンセプトにしたブラックメタルが登場した。その名も「Forest of Harambe」である。

日本人で覚えている人は少ないかもしれないが、ハランベとは2016年5月28日、シンシナティ動植物園で射殺されたゴリラの事である。ある子どもがハランベが住む柵を乗り越えて、濠に落ちてしまったところを、ハランベがその子どもに近づいていき、引きずり回そうとした。子どもに身の危険が生じる事を案じた動物園の職員によってハランベは射殺された。

その後、その時の様子がYouTubeにアップされ、ハランベを実際に射殺する必要があったのか、疑問視する声が高まり、子どもの両親や動物園を非難する声が高まっていった。日本では続報は聞かれなかったが、特に欧米では自然愛好家やエコロジストの間で憤激を呼び、抗議が殺到した。

・ノルウェーから、殺されたゴリラをコンセプトにしたバンドが登場

そしてついにノルウェーからハランベを追悼するコンセプトのブラックメタル「Forest of Harambe」が登場し、『Under the Sign of Harambe』というデジタルアルバムを、世に送り出したのである。

「Bandcamp」というサイトで試聴が可能だが、そのジャケットはゴリラの肖像(実際のハランベかは不明)。そしてその上にブラックメタルでよく用いられるフォントで、「Forest of Harambe」と記されており、いかにもブラックメタル。しかしどうしてもゴリラとブラックメタルのイメージが合わず、そのミスマッチ感がギャグに思えてしまうほど。

アルバムは全3曲で「I Am the Harambe」、「Dicks Out」、「Den Gråtende Primat」。そのうちの2曲目は「Dicks Out」という当時アメリカで流行ったフレーズで、3曲目はノルウェー語で、「泣いている霊長類」という意味だ。

・ポンコツのサウンドだが、実はルーツの奥は深い

曲を聴いてみると、この手のジャンルに特有のあたかも近代文明や音響技術を否定したような、ローファイなサウンドのプリミティブブラックメタル。こもったギターにポコポコしたドラム、電話口から聞こえるようなボーカル。




曲もシンプルなトレモロリフが行ったり来たりするだけで、一般人がいきなり聴いてもこれがなぜメタルなのかよく分からないレベル。「Burzum」や「Depressive Silence」といったアンビエントブラックの流れを汲んでいる事を踏まえて聴いてみないと、ただ音質が悪い下手くそな音楽に聞こえてしまうかもしれない。

彼らはあるインタビューで、ノルウェーの「Darkthrone」やウクライナの「Drudkh」、フランスの「Blut Aus Nord」、アメリカの「Yellow Eyes」などから影響を受けたと答えており、そうしたバックグラウンドを踏まえたマニアックなリスナーからすると、的を射たサウンドを奏でていると言える。

・共産主義の生みの親をリスペクト

また自分たちの事をエコテロリストで、カール・マルクスから影響を受けていると述べており、出身はノルウェーのベルゲンとしているが、最近ではライブを一際せず、正体を一切伏せて、オンラインだけで活動し、出身地を詐称するバンドが増えてきているので、本当かは分からない。

日本人からすると、イルカ猟や捕鯨でグリーンピースやシーシェパードから反対されたり、攻撃されたりするのを目にする度に、欧米のエコロジーの一方的な正義感にウンザリするのも事実。その独善的なエコロジー思想とブラックメタルの反近代思想が融合して、結果的にこの「Forest of Harambe」に繋がるわけだが、ここまで来るともはやギャグ。

・南アフリカにも、轢死されたフクロウ追悼ブラックメタルが

『デスメタルアフリカ』という本でも、白人至上主義を唱える南アフリカのブラックメタル「Volkmag」が、「道端で車に轢き殺されるフクロウ」に対する追悼ソングを制作していた。「フクロウ」というのは何かの隠喩かと思いきや、本当にあの鳥のフクロウを意味していたので、半ば呆れた記憶がある。

過激さを追い求めたブラックメタルが、反近代や反人類の思想を掲げて、死んだゴリラやフクロウをコンセプトにするに至った状況はかなりシュールと言わざるを得ない。エクストリームメタルのある一派の、この方向性が正しいのか。やや疑問に思っている、今日この頃。

執筆:ハマザキカク
イラスト:Rocketnews24


Source: ロケットニュース24






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